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福岡地方裁判所 昭和41年(行ウ)14号 判決 1969年7月31日

福岡市草ヶ江三二番地

原告

株式会社 野田屋

右代表者代表取締役

野田市郎

右訴訟代理人弁護士

森田莞一

福岡市天神四丁目一

被告

福岡税務署長

奥田杏平

右指定代理人

訟務部長

上野国夫

法務事務官 原田義継

法務事務官 東熙

大蔵事務官 小林淳

大蔵事務官 大神哲成

大蔵事務官 大塚悟

右当事者間の昭和四一年(行ウ)第一四号法人税課税処分取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、申立

一、原告

(一)  被告が昭和四〇年一二月二五日付をもつてなした原告の(1)昭和三八年四月一日より昭和三九年三月三一日にいたる事業年度分の法人税額を金一六万三、六六〇円増額更正し過少申告加算税八、一五〇円を賦課決定した処分、および(2)昭和三九年四月一日より昭和四〇年三月三一日にいたる事業年度分の法人税額を金一二八万五、二三〇円増額更正し過少申告加算税六万四、二五〇円を賦課決定した処分をいずれも取消す。

(二)  被告が昭和四一年四月二八日付でなした原告の昭和三九年四月一日より昭和四〇年三月三一日にいたる事業年度分の法人税額を金二〇万二九〇円増額再更正し過少申告加算税一万円を賦課決定した再更正処分を取消す。

(三)  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文と同旨

第二、主張

一、請求原因

(一)  原告会社は同族会社であるが、青色申告書により法人税について

(1) 昭和三八年四月一日より昭和三九年三月三一日にいたる事業年度分(以下前期分という。)について所得金額九六一万二、六一六円税額三二四万四六〇円

(2) 昭和三九年四月一日より昭和四〇年三月三一日にいたる事業年度分(以下後期分という。)について所得金額三八二万五、五五一円税額九四万一、四八〇円

と確定申告した。

(二)  ところが被告は同年一二月二五日付をもつて、

(1) 前期分については所得金額につき金四三万一、四二五円、税額につき金一六万三、六六〇円の増額更正し、過少申告加算税八、一五〇円を賦課決定し、

(2) 後期分については所得金額につき金三四一万七、九六七円、税額につき金一二八万五、二三〇円の増額更正し過少申告加算税六万四、二五〇円を賦課決定した。

(三)  原告は、右更正通知書および加算税賦課通知書を昭和四〇年一二年二五日受領し、昭和四一年一月二四日付で福岡国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は同年三月三一日付で前期分については一部取消、後期分については棄却する旨通知し、原告は右通知書を同日受領した。

(四)  被告は同年四月二八日付をもつて更に後期分について、所得金額につき金五二万九、三二〇円、税額につき金二〇万二九〇円の増額更正し、過少申告加算税一万円と再更正し、原告は右再更正処分に対し、同年五月二七日付で同局長に対し審査の請求をしたが、同年六月三〇日付で請求は棄却され、原告は右通知書を同日受領した。

(五)  被告のなした処分にはそれぞれ次の違法事由がある。

(1) 前期分更正処分

(イ) 被告のなした更正処分は原告が訴外株式会社中洲会館(以下訴外会社という)より譲り受けた福岡市東中洲一一〇番地宅地一七八・五一二三平方メートル(五四坪)および建物造作等(以下単に本件資産という。)の譲受行為につき法人税法(昭和三七年法律第六七号による改正法)第三〇条(以下旧法第三〇条という。)を適用した結果がその一つであるが、右法条適用の要件を欠いている。

旧法第三〇条適用の第一の要件は、法人の行為計算が同族会社であるが故に可能であり、非同族会社では到底できないような非合理的な行為計算であることである。第二の要件は、その行為計算を容認した場合に法人税の負担を減少させる可能性が明白であることである。そこでまず第一の要件について考えるにすなわち同法条は、同族会社を租税法上不利に扱わんとする趣旨ではなく、非同族会社であれば株主若しくは役員相互からの牽制によつて不可能であるような行為でも、同族会社では税負担の軽減する目的のもとに可能となることがあるので、これを放置すれば税負担の公平を害するという見地から設けられた規定である。従つて建物造作等の右譲受行為において、同族会社であるが故に可能であり、また、非合理的な行為であるか否かの判定の一つの標識として譲受価額が時価相当であつたか否かが考えられるのである。

右見地より本件資産の譲受価額をみると

(a) 土地 およそ土地のごとき不代替的資産で、しかも同一物についての取引が極めて稀である資産については、時価の算定は困難である。従つて、税法においても有価証券については詳細な時価評価規定があるにも拘らず、不動産についてはなんらの規定も存しない。従つて合理的な方法で時価評価がなされておれば法の認めるところと解する外はないのである。原告は本件土地の譲受価額を決定するに当つて、登記所に問合せ移転登記をなす場合の登録価額を譲受価額とした。登録価額も時価とされているのであるから、原告の算定した時価算定方法は合理的なものである。

(b) 建物内部造作等 原告は譲渡人たる訴外会社の帳簿価額をもつて護り受けた。建物の造作等を譲渡する場合には、スクラツプとして売却する場合を除き、引続き使用するときはその時価評価が困難であるため帳簿価額で譲渡することは多くの実例があり、一種の会計慣行とも考えられ決して不合理なものではない。

しかるに被告は本件資産の譲受価額をいずれも時価より過大であると認定した。すなわち

<省略>

なお、福岡国税局長のなした審査請求に対する裁決の理由は更に原処分庁の評価を下廻る土地五六七万円建物内部造作等三、三五八万三、〇〇〇円を時価であるとしている。

つまり、土地の差額二七五万四、〇〇〇円については、原告がそれだけ時価より過大に買入れたものであると認定し、それは訴外会社への贈与であるとして寄附金とみなして寄附金の限定計算を行ない、限度超過額を所得に加算し、建物内部造作等の差額八九二万六、五三九円については、これが減価償却資産であるため、大きい金額を基礎とした原告の減価償却費と、小さい被告認定額を基礎とした減価償却費との差額を前期分後期分とも減価償却超過額として所得に加算して更正処分が行われたのである。

(ロ) 法人税の負担を不当に減少させることにはならない。仮りに本件資産の譲受価額が時価より幾分高価であつたとしても、左表のとおり売主訴外会社に本件土地については譲渡益が発生し、建物内部造作については損失の発生を免れ、訴外会社の法人税額が増加することになり、国の租税収入としては全体的に観て減少することにはならず、法人税の負担を減少させることにはならない。

<省略>

(ハ) 租税法律主義の原則に反する

租税の賦課処分は、厳格な覊束裁量行為であつて絶対に自由裁量行為であつてはならない。当初被告係官の調査に際しては、土地の時価のみが問題にされ、しかもその譲受価額が時価より低過ぎるので低い分だけ受贈益として原告の益金に加算して課税するといわれたのであり、それが後には全く正反対に時価より高過ぎるとして本件処分を受けたのである。課税する側から見れば、譲受額が時価より高過ぎても低過ぎても課税の方法がある。すなわち、高過ぎる場合には時価を超える金額だけ寄附金として寄附金の限度計算を行つて課税することができるし、低過ぎる場合は時価との差額だけ譲受側が贈与を受けたものとして、受贈益として益金に算入される。ところが、本件のごとく時価の算定が困難であり、法律にも時価算定方法の規定がなく、また公開された取扱通達にもよるべきものがない場合例えば土地について所謂市場資料比較法を採用して時価を算定しようとしても他人の売買実例の内容まで立入つて知ることは事実上不可能である。したがつて納税者としては徒らに課税庁の鼻息をうかがつて右往左往するほかに方法がない結果になつてしまうのである。結果的には自由裁量に近い事態が生ずることになる。

客観的な時価算定が困難である本件の場合課税官庁のみ知りうる独自の手段で時価を計算し、納税者の計算と若干の差異があれば、納税者の計算も一応合理的方法によつたものであるのにかかわらず、直ちに旧法第三〇条を適用して更正処分をなすことは、租税法律主義の原則をもその結果において破るものであり、憲法違反の謗を免れない。

(2) 後期分更正処分

後期分更正処分は、前期分更正処分において被告が建物造作等の買入価額が過大であると認定した結果後期分の減価償却超過額を否認したものであつて、前提たる前期分更正処分が違法なことは前記のとおりであるから、(1)記載と同一の違法事由がある。

(3) 後期分再更正処分

この再更正処分は被告主張の理由でなされたものであるが、しかしそれは福岡国税局長のなした昭和四一年三月三一日付裁決(福岡協(審)第八八号、同第八九号)の理由に基づいて行つたものであり、原処分より不利益に変更したことになるので行政不服審査法第四〇条第五項により違法である。

仮りに右の主張が理由がないとしても、(1)記載と同一の違法事由がある。

二、被告の答弁および主張

(一)  答弁

請求原因(一)ないし(四)の事実は認める。同(五)の事実は争う(各更正処分の理由、原告の本件資産の譲受価格が原告主張のとおりであることは認める。)

(二)  被告の主張

(1) 原告の本件物件購入価額は、時価よりいちじるしく高価であり、原告の法人税を不当に減少させるものである。原告の本件物件購入価額<イ>、時価<ロ>、その差額<ハ>(<イ>―<ロ>)は次のとおりである。

土地 減価償却資産 計

<イ> 一〇、五三〇、〇〇〇円 五三、二二一、四五一円 六三、七五一、四五一円

<ロ> 五、六七〇、〇〇〇円 三三、五八三、〇〇〇円 三九、二五三、〇〇〇円

<ハ> 四、八六〇、〇〇〇円 一九、六三八、四五一円 二四、四九八、四五一円

右時価の算定方法は次のとおりである。

(イ) 土地の評価方法

(Ⅰ) 本件土地実測一七八・五一二三平方メートル(五四坪)には原告所有のビルが建つており、原告が借地権を有しているので、原告が譲受けたのはいわゆる底地のみで土地の価格は借地権負担付の価格として評価されるべきである。

(Ⅱ) 底地の売買実例がないので、更地価額に底地割合を乗じた価額をもつて評価額(時価)とした。

(Ⅲ) まず、更地価格は、同一地域における更地の売買実例から、次のとおり事情による補正および時点の修正を行ない、標準価格を算出すれば、三・三〇五七平方メートル(坪)当り金四八万二、〇〇〇円となる。

(a) 売買実例価額(坪当り) 400,000円

(b) 負債整理のための売却申込につき一〇パーセント修正 400,000円÷(1-0.1)=444,400円

(c) 奥行調整による逓減指数九六パーセント 444,400円÷0.96=463,000円

(d) 本実例の契約は三八年一二月につき四パーセントの修正 463,000円×(1+0.04)=482,000円

(Ⅳ) 本件土地は(Ⅲ)の売買実例の土地に比べて地理的条件が劣つているので、その一〇パーセント減とする。

482,000円×90パーセント=434,000円

(Ⅴ) 本件土地にある建物は、鉄筋コンクリート造りの堅固な建物であるので、土地の有効な利用が妨げられているため、(Ⅳ)により算定された価額の八〇パーセントとする。 434,000円×80パーセント=348,000円

(Ⅵ) 以上により算定された更地価額に底地割合を乗じたものが本件土地の評価額となるが、堅固な建物のある底地割合は三〇パーセントが慣習となつているので、本件土地の時価は次のとおりである。

348,000円×30パーセント×54(坪)=5,670,000円

(ロ) 減価償却資産の評価方法

本件減価償却資産は、取得価額および取得時期が判明しているので、取得時から譲受時までの価格変動率を適用して、復成価額(評価時点において新規に調達すればいくらになるかという価額)を算定する。

次に、機能的減価および経済的減価として設備の旧式、長期不使用、設備の取替、補修および有効使用とは認められない等の事由によつて、各設備に応じて減価率を定めて減価額を算定する。この減価額を前記復成価額より控除した金額が譲受日現在の時価である。

各設備ごとの評価額算定は別表のとおりとなる。

(2) 訴外会社に譲渡益が発生するからといつて全体的にみれば、法人税負担の減少とはならない旨の原告主張は失当である。

まず、旧法人税法第三〇条の文理上、法人税の負担を減少させるとは、当該同族会社の法人税の負担を減少させる場合を指称するものであつて、取引の相手方の法人税をも総合して負担の減少となるかどうかを論すべきものではない。このことは相手方が個人の場合を想起すれば明らかである。

また、旧法人税法第三〇条の規定は、取引行為の実体を否認するものではなく、同族会社自体の行為または計算が当該同族会社の法人税を不当に減少させる結果があれば、同法条を適用して当該会社の税務計算を否認し、通常の経済的合理的計算に従つて課税するものであつて取引の相手方の行為計算と切離して考えるべきものである。これを本件についてみれば、本件の場合は不当高価買入をそのまま容認するときは、原告が譲受けた本件固定資産の受入帳簿価額はその分だけ過大となり、その金額を基として損金に計上される減価償却額もまた過大となり、法人税を不当に減少させる結果を生ずることになるので、その行為計算を否認したものである。

ところで、否認された不当高価買入額二四、四九八、四五一円は、経済的に合理的に行動したとすれば通常とつたであろうと認められる行為計算としては、訴外会社に対する贈与と認められるのであるが、贈与としても、訴外会社に譲渡益と同額の受贈与益が発生するのである。すなわち、通常の行為計算の場合と、原告会社の行為計算とを対比すれば、訴外会社に金二四、四九八、四五一円の益金が計上される点は同じであつて、ただ、原告会社における減価償却費の計上が、後者の場合は前者の場合より過大に行われ、右過大な損金計上に伴う原告会社の法人税負担減少の結果が生じる。

(3) 行政不服審査法第四〇条第五項但書の不利益変更禁止の規定に反するものではない。

右法条の規定は、審査請求が準司法的な手続により権利利益の救済手段たることを主な目的とする制度であることにかんがみ、裁決庁が審査請求人の不利益に当該処分を変更することを禁止する趣旨のものである。

ところで、本件は被告が昭和四〇年一二月二五日付をもつて原告の昭和三九年度法人税について

所得額 七、二四三、五一八円

税額 二、二二六、七一〇円

加算税 六四、二五〇円

として法人税額更正処分をなしたところ、その後の調査により土地およびその他の減価償却資産の評価額等に誤謬があり、原告の昭和三九事業年度の所得額が次のとおり金五二九、三二〇円増額することが判明した。

<省略>

よつて、被告は独自の判断により、租税負担の公平を図るため、正当な評価額に基づき

所得税 金七、七七二、八二八円

税額 金二、四二七、〇〇〇円

加算税 七四、二五〇円

と再更正したものであつて、行政不服審査法第四〇条第五項但書の不利益変更禁止の規定に違反するものではない。

三、原告の反対主張

(一)  時価計算方法について

被告主張の計算方法は、土地については実例として挙げられている土地の特殊性に問題があり、かつ底地割合、地域的条件の減額等その根拠が明示されず数字の魔術によつて強いて合理性を強調した感があり首肯できない。また、減価償却資産については、償却方法には定率法と定額法とがあり、そのいずれを選ぶかによつて差異の生ずるところであるし、更に経済的減価率をいかなる根拠により算定しか明らかでない。

ともかく、同一資産に対する評価について原告と福岡国税局長との間にも大きな開きがあり、時価の算定というものが租税法規に規定されていないので絶対的な数字というものはありえず時価とは多分に巾のある価値概念である。したがつて原告のなした評価も合理的なものである。

(二)  税負担の不当減少について

(1) 被告は、建物内部造作等について、原告の過大計上と認定した金八、九二六、五三九円だけ将来償却費が計上される可能性がある、と主張するが、一時に譲渡損とするか、将来少しづつ償却費として落して行くか、そのいずれによるも結論は同一である。

(2) 被告は、旧法人税法第三〇条は対象法人のみの税負担を考えるべきであると主張するが、同法条が請求原因において述べたように租税政策上の目的から設けられたことを考えれば被告の主張の誤りであることは明白である。

現行法人税法が法人擬制説を基盤としていることは、法人の受取り配当金の益金不算入などの規定よりみて明らかであつて、法人税を配当所得の源泉課税と考えている。従つてどの法人からその源泉において課税しようと租税体系上は価値は同一であるべきであつて、旧法人税法第三〇条も広い租税体系全体の視野より、その趣旨を理解すべきである。

第三、証拠

一、原告

甲第一ないし第九号証(但し、同第三、四号証はその一、二に分かれる)を提出。証人近藤正也、同野田賢一の各証言を援用。

乙第三号証の成立を認め、その余の乙号各証の成立は知らない。

二、被告

乙第一ないし第八号証(但し、同第一号証はその一、二に同第八号証はその一ないし三にわかれる)を提出。

証人内田利光の証言を援用。

甲第五、七号証の成立は知らない。その余の甲号各証の成立を認める。

理由

請求原因(一)ないし(四)の各事実については当事者間に争いがないので、以下被告のなした各処分の適否について検討する。

(前期分更正決定について)

一、前期分更正決定の更正理由の一つは、原告が訴外会社から譲り受けた本件資産の譲受行為につき旧法第三〇条を適用した結果であることは当事者間に争いがなく、そして原告の譲受価格は土地が一、〇五三万円、減価償却資産が五、三二二万一、四五一円であるのに対し(この点当事者間に争いがない)、被告はその時価は土地が五六七万円、減価償却資産が三、三五八万三、〇〇〇円であると主張するので、被告の該主張が正しいか否かについて考える。

二、証人内田利光の証言及び同証言によつて真正に作成されたものと認められる乙第一号証の一、二、同第二号証、同第四号証ないし第七号証、同第八号証の一、二、並びに成立に争いのない乙第三号証によれば、被告主張の算定は次のようにしてなされたものであることが認められる。

(一)  土地について

不動産の鑑定評価に関する法律に基き、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価に当り依るべき基準の設定のため建設省に設けられた宅地制度審議会が、昭和三九年三月二五日答申の「不動産の鑑定評価基準」(乙第八号証の「ないし三一中の市場資料比較法によつたこと、即ち具体的には次のとおりである。

(1) 本件土地の近くにある通称国体道路に面した一四四・七二七二平方メートル(四三・七八坪)の宅地が昭和三八年一二月二三日更地として売買され、譲渡価格は坪当り四〇万円であつたこと。

(2) 右土地の譲渡は借入金の負債整理のための売り申込みであつたこと、従つて福岡国税局資産税課において管内の現実の不動産売買の実績から算出した「売買事情による修正率表」(乙第四号証)によれば、通常の負債整理の場合においては一〇ないし二〇パーセント低額になるが二〇パーセントに及ぶのは特殊な場合であるので一〇パーセント増四四万四、四〇〇円を算出したこと。

(3) 本件土地は間口六・三六メートル(三・五間)、奥行二二・七三メートル(一二・五間)であるので、財産評価通達として全国的に用いられている「奥行価格逓減率表」(乙第五号証)の繁華街高度商業地区に適用される率〇・九六を更に乗じて四六万三、〇〇〇円としたこと。

(4) (1)の土地の売買は昭和三八年一二月二三日であり、本件土地の売買は昭和三九年二月末であるのでその差を考慮して、不動産研究所作成にかかる「六大都市を除く地域別市街地価格推移指数表」(乙第六号証)中、商業地については昭和三〇年三月を一〇〇とした場合昭和三八年九月は五九〇、昭和三九年三月は六二七で六ヶ月に六パーセント強の変化があることを勘案し、かつ原告に有利に端数を切上げて四パーセントとみて四八万二、〇〇〇円と修正したこと。

(5) 場所的条件として本件土地は狭い道路に面しているので相続税の基準となる各道路に面した土地の坪当りの価格を比較する方法である路線価方式による二七万三、〇〇〇円と二四万五、〇〇〇円との差約一〇パーセントを適用して一割減の四三万四、〇〇〇円と修正したこと。

(6) 本件土地上には原告所有の鉄筋コンクリート八階建ビルが建設されていたので、原告のため借地権ありと認定し、昭和二六年一一月八日国税庁基本通達別表「借地権割合(貸地評価減割合)基準」(乙第七号証)により、大都市繁華街八〇ないし六〇パーセントの中間七〇パーセントを採用し、又坪当り四〇万円以上は七〇パーセントという慣習もあるので、底地割合を三〇パーセントとしたこと。

(7) 本件土地上には右建物が存在し、かつその建物が最有効に使われていない状態にあつたので、いわゆる建付減を二〇パーセントと見たこと。

(8) 結局以上により本件土地の時価は坪当り一〇万五、〇〇〇円と計算し、五四坪あるので時価は合計五六七万円となつたこと。

(二)  減価償却資産について(この計算については被告の答弁及び主張中の表を参照)

(1) 建物内部造作

乙第八号証の一ないし三の「不動産鑑定基準」中の復成式評価法即ち対象物件につきそれを現在新しく調達したとしての価格(復成価格)を求め、それから実際に使用した範囲で経済的、物理的、機能的各要因による減価修正をする方法によつたこと。まず原告(会社)提出の資料により昭和三六年の実際の取得価格一、六七八万円を出し、それに不動産研究所或いは日本工業経営協議会作成の表(乙第一号証の一、二)の変動率<省略>を乗じて復成価格を一、九〇〇万円とした。次に各種要因についての減価としては固定資産の償還に関する大蔵省令で定められている法定耐用年数は五〇年であるが本件の場合二年経過しているので定率法により〇、〇八八(物理的要因)、譲渡当時他人に貸していたが借用者がそのままでは使用できないため金三、六〇〇万円をかけて改造(電話、消火設備を除き)している事実、原告所有のビル完成後内部造作までに七、八年の期間があつたことからして全体的に相当陳腐化しているとみて〇・一五(経済的機能的要因)の各減額をして、価格一、四四七万八、〇〇〇円としたこと。

(2) その他の造作

前同様の方法で取得価格四三万八、五〇〇円(前記のとおり原告提出の資料による―以下同様)変動率<省略>減価修正として法定耐用年数は一〇年、経過年数二年、定率法により減価率〇・三六九(物理的要因)、機能的、経済的要因による減価率〇・一五〇として価格二四万円としたこと。

(3) 冷暖房ボイラー設備

前同様の方法で取得価格機械設備費八五〇万円、工事費二〇〇万円、変動率は機械設備については日本銀行発表電気機械器具卸売物価指数を、工事費については労働省発表常用労働者賃金指数を使用して前者を<省略>、後者を<省略>とし、減価修正として法定耐用年数一五年、経過年数二年で定率法により物理的要因による減価率〇・二六四、そしてボイラー以外のものは原告が取外してスクラツプ化して持帰つていたことら機能的、経済的要因による減価率〇・二五〇として価格五〇五万九、〇〇〇円としたこと。

(4) 給排水設備

前同様の方法で取得価格三五〇万円、変動率は前記建築指数により<省略>とし、減価修正として法定耐用年数一五年、経過年数二年、定率法により減価率〇・二六四(物理的要因)、機能的、経済的要因(水が溜つて相当の修理をしていることを考慮して)による減価率〇・二〇〇として価格二一二万六、〇〇〇円としたこと。

(5) 昇降機設備

前同様の方法により取得価格七八〇万円、変動率は日本銀行発表の一般機械卸売物価指数により<省略>とし、減価率は耐用年数一七年、経過年数二年、定率法により〇・二三七(物理的要因)、機能的、経済的要因(修繕程度である)による減価率〇・〇五〇として価格五四六万八、〇〇〇円としたこと。

(6) 電気の設備

前同様の方法により取得価格五〇六万五、〇〇〇円、変動率は前記建築費指数により<省略>とし、減価率は耐用年数一五年、経過年数二年として定率法により〇・二六四(物理的要因)、該設備は全部水につかつていたので機能的、経済的要因として〇・二〇〇を減価して価格三〇七万二、〇〇〇円としたこと。

(7) 消火又は災害報知設備

前同様の方法により取得価格四〇万円、変動率は一般機械卸売物価指数により<省略>とし、減価率は耐用年数一二年、経過年数二年、定率法により〇・三一九(物理的要因)、機能的、経済的要因による減価はせず、価格二六万九、〇〇〇円としたこと。

(8) 電話設備

前同様の方法により取得価格一二〇万円とし、変動率は(7)と同様、減価率は耐用年数一〇年、経過年数二年、定率法により〇・三六九(物理的要因)、機能的、経済的要因による減価はせず、価格七四万五、〇〇〇円としたこと。

(9) ネオン塔

前同様の方法により取得価格二九〇万円とし、変動率は電気機械器具卸売物価指数により<省略>とし、減価率は耐用年数三年、経過年数二年、定率法により〇・七八五(物理的要因)、機能的、経済的要因による減価はせず、価格五八万五、〇〇〇円としたこと。

(10) 電話加入権設備

原告申請のとおり価格二七万一、〇〇〇円としたこと。

(11) 什器備品

前同様の方法により取得価格三九三万八、九七三円とし、変動率は日本銀行統計の家具家庭用金物卸売物価指数により<省略>とし、減価率は耐用年数八年、経過年数二年、定率法により〇・四三八(物理的要因)、訴外会社が中華料理店を営み、その什器等は全部原告が引取り、一部売却していることを考慮して機能的、経済的減価率を〇・二五〇としたこと。

(三)  以上の各事実が認められ、右認定に反する証人近野正也、野田賢一の各証言は信用できず、他に右認定に反する証拠はない。

そして以上の方法によりなされた本件資産の時価算定は合理的なものと考えられるから、右に算定された時価は相当であるといわなければならない。

三、右のとおりで本件資産の時価は土地が五六七万円、減価償却資産が三、三五八万三、〇〇〇円であるのに、原告が土地を一、〇五三万円、減価償却資産を五、三二二万一、四五一円で譲受けたのは、正に原告が同族会社なるが故であり、仮に原告が非同族会社であり、また純経済人としても通常はなしえないであろうと考えるを相当とするから、これにつき被告が旧法第三〇条を適用してその計算を否認したことは相当であるといわなければならない。この点に関し、原告は「仮に本件資産の時価が被告主張のとおりであるとしても、売主訴外会社に本件土地については譲渡益が発生し、建物内部造作については損失の発生を免れ、訴外会社の法人税額が増加することになり、国の租税収入としては全体的に観て減少することにはならず、法人税の負担を減少させることにならないから、かかる場合には旧法第三〇条は適用されない」と主張するけれども、当裁判所としてはその見解には賛同しえない。

(後期分更正決定について)

本件更正決定の更正の理由でなされたものであることは当事者間に争いがないのであるが、本件減価償却資産の時価が被告主張のとおりであること前認定のとおりである以上、それが違法であることを理由としては本件更正決定に違法はない。

(後期分再更正決定について)

本件再更正決定が原告主張の理由でなされたことは当事者間に争いがない。原告はかかる再更正決定は行政不服審査法第四〇条第五項に反する旨主張するが、同項にいう不利益変更禁止の原則は、審査庁が審査請求者にとつて原処分より不利に変更してはならない旨定めるにすぎないから、右主張は理由がない。

又本件償却資産の時価が被告主張のとおりであること前認定のとおりであるから、これが違法であることを理由とする原告の主張が理由がないことは明らかである。

(結語)

以上により結局原告の請求はいずれもその理由がないことになるのでいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中池利男 裁判官 川上孝子 裁判官山口茂一は転任につき署名押印することができない。裁判長裁判官 中池利男)

<省略>

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